人恋しき 秋の深まりに
      〜かぐわしきは 君の…

     



ついつい如来としての神通力が緩んでしまい、
お魚さんたちを意味なく興奮させちゃったことへと
焦った気持ちを宥めるつもりが。
ひょんな運びで螺髪が解けてしまったブッダ様であり。(ひょんな?)笑
そんな髪を再び結い戻せるよう、
本当に気持ちが静まるまで少しほど間を取ってから、
何事もなかったかのよに明るい地上階へと戻って来ると。
今度こそすっかりと落ち着いて、
目映い光のあふれる中、
大水槽で群れなすたくさんのお魚たちの壮観さを堪能し、
別棟のあざらし館に行って、
岩屋の上に陣取るトドやアシカにも手を振ったりと、
本来の楽しみ方で広い構内のあちこちを回ってゆくお二人で。

 「うわぁ、大きな魚だねぇ。」

南米の大河というコーナーでは、
やや曲がりくねった格好の大きな広葉樹をデンと据えたエリアを囲んで、
キヌサヤみたいな形だとブッダがつい評した それは大きなピラルクや、
牙の立派な、でもまだまだ小さな仔ワニなどが展示されており。

 「わ、これってピラニア?
  確か凶暴で知られているんだよね?」

 「こんなに口が小さいのにねぇ。」

なんか見かけに拠らないねぇ。
つか、私 もっとこう、
牙が何本もはみ出してるような、
ガバァッて大きい口をしているかと思っていたよ、と。
小学生の見学者たちと変わらないくらいの無邪気さで、
珍しい魚や大きな昆虫に爬虫類、
のっぺりとしたサンショウウオなどを、
やや怖々、でもでも興味津々、のぞき込んでの仲良く眺めておいで。

  と、そこへ、
  ピンポンパンポ〜ンというチャイムの音が鳴り響き、

 【 お客様にご案内を申し上げます。
  ただ今より、イルカとアシカのショーを
  海側 屋外プールステージにて開催致します。】

そんな構内放送が聞こえて来たものだから、

 「わvv」
 「うんvv」

多くを語らずとも、
わくわくとしたお顔とお顔を見合わせただけで意は通じてしまう。
どっちかな、あ、矢印があるよと、
二人協力して、屋外ステージとやらを目指し、
あっちだこっちだと ついつい速足。
そういえば館内からは随分と人影が減っており、
あんなにいた小学生たちの声もしない。
どうやら先に、パンフなどで
開始時刻を確かめてあったのだろうと思われて。

 「あ、こっち。」

順路を指す標識に従って、
1階の奥向きの出口から
ビニールの幌が屋根になっている渡り廊下へと踏み出せば。
少し冷たい風の中、潮の香りがぐんと強まる。
ばさりと長い髪が掻き回されて視野を覆われ、
おととと思わず立ち止まったイエスを案じたか、

 「大丈夫?」

少し先を進んでいたブッダが振り向いてくれて。
それへ平気と笑い返しつつ、

 “髪か…。”

ブッダの螺髪は精神力で結い上げられているそうで。
普段の彼からは思いもつかぬほど とんでもなく長い髪を
神通力だけで、ぎゅぎゅうと粒状に圧縮しているのだそうな。
尋常ならざるその力を、
だがだが、普段はまるきり意識することもなく、
眠っていても解けることはないほどの、
呼吸くらいの当然ごととして保っておいでの彼であり。
それが弾けるほどに、ああ物凄く混乱したのかとか、
恥ずかしかったんだねぇという現れみたいな
バロメータみたいなことになっている、
今日この頃だったりするのだけれど。(おいおい)

 “仏としてのオーラは
  それこそ、それ以上に簡単な呼吸で封じておれるはずなのにね。”

だってそうでもしないと、
行く先々どころか、地上にいるというだけでも
あちこちへ多大な影響を振り撒きかねないほどの存在だ。
ブッダに限らず、イエスもその他の聖人たちも、
仏門の守護神や 天乃国の守護天使たちも。
地上へと降臨したまいし時は、その影響力を考えてのこと、
覇気や聖気は極力セーブしているし、
だがそれは、肩に上着でも引っかけるようなノリでこなせてこそ、
降臨も可能という順番なはずだというに。

 『ごめんなさいっ、ついつい君のこと考えてました。/////////』

そんな簡単なセーブさえ緩むほどの、忘我状態になってただなんて。
そうまで深く、イエスのことを考えていましただなんて……。

 “私のことを考えてただなんて〜〜〜っ。/////////”

文化が違うからと、
なかなか大っぴらには“好き”とも言えず、
挨拶レベルのハグもキスも、
当初は いかにもあたふたという覚束なさで応じておいでだった、
それはそれは品よく生真面目で、慎ましやかな如来様。
ずっとずっと、それこそ気が遠くなるほどの長いこと、
こちらこそこの恋心を打ち明けもしないでいたのだもの。
そのまま知られないでいいと思っていたし、
それほどに大事な人だから、無理強いなんてしたくなかったし。
だから、少しずつ大胆になってくれるのが
ワクワクと嬉しいばかりな只中だったのへ、

 “…それって。///////”

さっきは 取るものもとりあえず
あの場から離れようということを優先しちゃったけれど。
真っ赤になってたブッダが口にした言いようも、
こうしたからああなったという、
事の次第とか 物の理屈ってだけの
受け止め方しかしなかったのだけれど。

 “うわ、何かそれって、物凄いことだよね。///////”

それは深く深く、文字通り 我を忘れるほどになって
イエスのことを考えていたというキミ。

 そんなあなた、
 切なくも甘いことをペロッと言われてもですね。//////

あああどうしよう、今になってこっちもまた、
何か突拍子もない奇跡が起こりそうなほど、
嬉しいという気持ちが膨れ上がってしまって落ち着けぬ。
口元が緩んで緩んで、お髭が鼻先へ当たって困るほどで。

 「イエスー、始まっちゃうよ。」
 「うん、今行くよ。」

跳ね上がりたいほどのドキドキを何とか押さえ込み、
オーイと手を振り返して駆け出せば。
その手から知らず振り撒かれた光の粒が宙を舞い、
連絡通路の両側にあったアジサイの茂みが、
季節はずれにも程がある薄紫の花手鞠を
ぽぽぽぽんっと鮮やかに咲きそろえてしまったのでした。
そろそろ冬籠もりの蝶々たちには思わぬ羽休めの場ですが、
いいのかなぁ、これ………。(苦笑)




     ◇◇◇



階段状の座席がステージプールを取り巻く格好の、
摺鉢型の場内は結構な入りで。
正面になろう特等席は小学生たちの団体が埋めていて、
他にはと見回せば、
水槽に近いとある一角に多少の空きが見えるくらい。
この時期はさすがに観客へ水をかけるアトラクションはないものの、
それでも濡れるのはいやだとするせいか、座る人が少ない一角らしく。

 「まあ、濡れはしないでしょ。」
 「うん。」

そうまでの危険があるところなら、
近寄れないようにロープが張られているはずと。
観客席の通路でもある階段を降りてゆけば、
ショーの方は もう始まっているものか、
司会も兼ねておいでの進行役のお声が聞こえて来て。
ステージの上には、アシカが何頭か よちよちと出て来ており、
リンゴくらいの小さな台の上で、ヒレのような小さな前足で逆立ちをしたり、
トレーナーなのだろうウエットスーツ姿のお姉さんと
ビニールボールでキャッチボールをしたり、輪投げをしたり。
それらの合間には自分で前足をパチパチパチと合わせ、
拍手を催促するのがまた、何とも愛嬌たっぷりで。
その度ごとに、場内がどっと沸いての何とも楽しそう。
そんなあしかたちが退場してゆくと、お姉さんが吹く涼やかなホイッスルの合図で、
プールの中からステージへ、イルカが何頭かするりと上がっていって、
キュウクゥと愛らしい声を上げ、お返事をして見せたりする。

 「わあ、何か段取りが早いなぁ。」

この時期の屋外、しかも水場は寒いので、
演目の内容も、その尺が少々カットされているのかも。
一応は目の前での展開だし、何なら立ち止まって観るもよしと、
特に焦ってなどいなかったのに、

  え………?

場内はさほど濡れてない。
だというに、イエスの足元が“何かに掴まれて”のつるりとすべった。
あわわとたたらを踏んで、何段かを飛ぶように駆け降りた彼であり。
その先には転落防止だろう鉄柵があったのに、

 なぜかそれがガクンと外れ、

彼の真っ正面に迫るは、
水面下も見えるよう樹脂製なのだろう、透明な壁。
そのまま行けば、それへと叩きつけられるだろう勢いが
全く衰えぬまま駆け降りている彼であり。

 「イエスっ!」

後に続いてたブッダが“何で?”と、それは強く不審に感じたのは、
彼らが歩む足元が くどいようだが一向に濡れてなぞいなかったからで。
しかも鉄柵に至っては、古くもなければ錆びてもいないそれが、
イエスが触れるより前に、
逃げるように向こう側へと落ちたのを見てしまったからに他ならぬ。
そのままでは頭からの激突になると、
こちらは自ら勢いよく駆け出したブッダの手の先、
せめてパーカーの端でも掴めればと延ばした手だったが、

 「…っ!」

そんな彼までもが、妙な間合いで失速し、
転げ落ちかけて傍らのベンチにはっしと掴まる。

 “何だ、今のは。”

この彼がゾッとしたほどのリアルに、間違いなく“手”を感じた。
背中をどんと、誰かが押したような感覚。
あまりに鮮明だったため、それが却って危機感への反応を招き、
手が支えを探して難を逃れたのではあるが。
イエスへと延ばしていた手の方は、
その場での静止を余儀なくされてしまい、

 「あ…っ!」

どんな手も間に合わぬままに、堅い壁へとぶつかる…と思ったその光景。
目を覆いたかったが、いやそれではいけないと。
せめて神通力をと念じるためにも、逆に目を凝らせば、

 そんな視野の中にて、信じ難いことがまた起きた。

ざわつく喧噪の中、鋭く立った一陣の水音。
水中を凄まじいスピードで泳ぎ来た何物かが、
しゅばっとプールの縁ぎりぎりから空中へ飛び上がり、
その少し後を追って来たお仲間が、
先に飛び上がったお友達の背中をオビレで叩いてもっと高みへ。
彼らが目指したのは、まずは届かぬだろう高い位置へ下がっていた、
くす玉用だろうワイヤーロープで、

 それを鼻先で叩いた途端。

先には鉤がついていた結構な重量のそれが、
やや角度のあった真下へひゅんっと落下して来たそのまま、
イエスのジーンズのベルト部分へがっつり嵌まり、

 「わ…。」

ワイヤーの長さがぎりぎりだったのが幸いし、
それがピンと張ったことで引き留められての辛うじて、
水槽との衝突やその手前の段差への落下を免れられたのである。

 「イエスっ!」

いっぱいいっぱいだったのが、戻る反動で元いた方へブンと振られ。
そうやって帰って来た誰かさんを、
おおと驚きつつも、ブッダががっしと受け止めれば。
何が何だかと混乱収まらぬそんな二人へ、
大量の水が だっぱ〜んと浴びせられるという、
何ともド派手なおまけつき。

 「わあ、凄い。」
 「お兄さんたちもショーの人?」

水を浴びせたのはプールへ戻ったイルカたち。
それをかぶったは、ショーの一環、ピエロのような役回りだったから?と
そういう流れであるらしき、場内からの歓声と拍手が降って来て。
ありゃまあと、顔を見合わせた最聖二人だったのだけれども。

  そう、けれどでも。

その縁から下は随分な高さであり、
しかも真下はコンクリートの打ちっ放しな空間へ
資材らしき鉄パイプが槍のごとくに数十本も立て掛けられていて。
そこへ頭から落ちていたら、
いかなイエスといえど“帰還”を余儀なくされたろう。

 “いかなって…。”
 “あのですねぇ。”

人を何だと思ってますかと、こそり場外へ言い返したほどには、
何とかその心持ちも、収まりどころを見つけての
落ち着きかけていた彼らだったようで。
止まぬ拍手へ、あははという乾いた笑み浮かべ、
手を振り返して見せたところで、

  「ちょぉっといいですか?」

背後から低いお声をかけて来た人があり。
ぎくりとしつつ振り返れば、
ダークスーツをまとった、恰幅のいい初老の男性が、
やや引きつった笑顔で
こちらを見やっておいでだったりしたのだった。




     



その始まりからして全てが誰にへも突発事だったにも関わらず、
何故だかイルカさんたちが救いの手を延べてくれて。
それで助かったこちらの二人までもが
手を振って見せての、まるで仕込みだったかのように振る舞ったことから。
場内にも不穏な空気は生じず、ショーはそのまま続行されたものの。
その間にと、二人は関係者のかたがたから
事務所まで来て下さいと言葉少なに招かれてしまい。
何の覚えも企みもなかった流れとはいえ、
騒ぎを起こしたことへ大目玉を喰らうかと、
ドキドキしつつ案じていれば、

 「ほんっとーに申し訳ありませんっ!」

転落防止の鉄柵が落ちたのは管理上の不備でと、
恰幅のいい館長さんとそれから、
管理団体の主幹筋の人だというおじさんとにしきりと謝られた。
彼らにとっては、場内が沸いた無断飛び入りよりも、
妙にイルカに懐かれた結果の不思議現象よりも、
どうやらそこが、この度の事態の一番の問題点であったらしい。

 「いやあの。」
 「こちらも足元不如意でしたし…。」と、

謝罪というには 随分と力の籠もった押し出しのよさであり。
これはこれで迫力負けしかかりつつも、
こっちにも非はありましたしと、恐縮しきりの体で応じたけれど、

 「いやいや、そんなことは…。」
 「おっと、お洋服が濡れてしまわれたのですね。」

そういえば、
イルカさんが愛嬌一杯にプールへと戻ったおりに立ったのだろう
塩水の水しぶきをしこたま浴びている。
そんな事情で服が濡れたのでしょうとますますと気遣われ、
こちらのロゴ入りのトレーニングウエアをいただいてしまい、
更衣室にてシャワーを貸してもらっての着替えて戻れば。
観光で来日している外国の人だと思われたか、
水族館のじゃあなさそうなのも どんと混ざったお土産ものまで
山ほど進呈されてしまったからには、

 《 遠慮をしても長引くだけだよ、イエス。》
 《 みたいだね。》

下手をすると“口止め料”なんて名目の金一封まで、勝手に出て来かねない。
ここは それこそ経験からの切り替え、
これはどうもととりあえず素直にいただくことにして、
予定がありますのでと、這う這うの態で退出したお二人で。
事務室を出れば出たで、
いかにも職員さんかトレーナーさんのようないでたちなものだから、

 「あっ、さっきのっvv」
 「イルカさんのショーに出てたお兄さんたちだっ!」

そんな声が遠くに聞こえ、ギョッとしつつも愛想笑いは忘れずに、
はぁいと手を振りそのまま駆け出す。

 “まあ、大体は見終えていたしね。”
 “それに…”

ブッダだけじゃあなく、
あの混乱の中、当事者だったイエスもまた、
気がついてたことがあったらしくって。

 《 イエス、キミもしかして足を。》
 《 うん。誰かに掴まれたんだけど…。》

思いがけずの退出でありながら、
その途中から周囲をキョロキョロと見回し始める彼であり。
水族館の敷地のすぐ外、
駐車場側ではなくの、お隣の自然公園の
やや枯れかかった芝草が広がる広場への連絡路になっている、
こちらもテラコッタ風の赤レンガが敷かれた遊歩道の
両側に連なるツツジだろう茂みの中を目がけて、
途中から乱暴にもわしわしと突っ切り始めるイエスであり。

 「えっ。ちょっと待って…っ。」

何をいきなりと、驚きつつもブッダも後を追ったところが、
その身や 濡らした服とお土産の詰まった大きな紙袋やへ、
密に茂った小枝が当たるかと思いきや、
そこには別の空間が待ち構えていたりして。

 “ここって…。”

そういや昨日も似たような空間へ誘い込まれたブッダであり。
だがだが、今日のこれは別口の天界人が設けたもの。
そう、天界の聖なる存在が生み出したのだろう亜空間。

 《 イエス様、ご無事でしたか?》

 「うん。ラファエルこそ、よく間に合ったね。」

いえ、さっきのは本当にイルカさんたちの機転で私じゃありませんと、
ゆるゆるかぶりを振ったのは、
それが基本の制服なのか、
白いYシャツにグリーンのネクタイ、
漆黒のスーツという姿へは やや浮いても見える、
真っ直ぐの金の髪も優しげな大天使。
イエスの守護を担っておいでの、
癒しの天使ラファエルが降臨して来ており。
そんな彼が自分の身の後ろへ隠れようとする存在を、
ほらと優しく促してやれば、

 《 ごめんなさい。》

怖ず怖ずと出て来たのは、
小学生くらい、いやもう少し大きいくらいの少年で。
淡い褐色の髪は毛先ほど濃い色へと甘くグラデーションがかかっており、
潤みの強い双眸は、不思議な赤。
そんな風貌には見覚えなんてなかったけれど、

 “あ…。”

ブッダがハッとしたのは、
この子の“気配”に覚えがあったからに他ならぬ。
館内のところどころで感じた
視線のような気配のような感覚と、同じ波長がこの子からは聞こえて。
そうかこの子がと、今やっと平仄も合ったところへと、

 《 ボク、イエス様に助けてもらったから、あのね?》

おどおどとしつつ、
それでも、腰をかがめてにっこりと頬笑むイエスに励まされたか、
訥々とした口調で話し始める彼だったが。
その姿の輪郭が、
空間を満たす白い明るみの中、ふわりと淡くほどけると、
代わりのように小さな光の玉が浮かんでおり。

 “小さな蝶々だった魂……。”

こうまであらわな姿になれば、
ブッダにもその存在の有り様は手に取るように見通せる。
生まれたばかりだったのに、冷たいにわか雨に濡れてしまった身だったの、
散歩中のイエスに庇われ救われての後、それなりの寿命を終えたようで。
そのまま昇天するはずが、はたと気づいたのは、

 《 だって今の天界にはイエス様、いらっしゃらないのでしょう?》

  地上で自分を助けて下さった尊いお方。
  でも、ということは、
  これから向かう天の国には、
  あの方はいらっしゃらないってことだと気がついて。

 《 だからと言ってあんなことをしでかすとは。》

どんなに優しい人性であれ、
道を外れたことへは容赦なく叱るのがそれこそ道理。
ましてや、魂を導く存在でもある大天使様だけに、
珍しくもお顔を険しくして
幼い身で大それたことをしたらしき相手を
厳しくも叱咤しかかったのだけれど。

 「いいんだ、ラファエル。」

トレーニングウェアの上下といういで立ちは、
いつものTシャツにGパンという恰好以上に何とも凡庸で。
ましてや、どう踏ん張っても
アスリートや体育教師というより、
町内会の運動会へ無理から駆り出された
文科系の大学生という脆弱な雰囲気の彼だったけれど。

 それだのに、どうしてか
 大きく温かな覇気がするすると溢れ出し。
 それを満たした笑顔を
 小さな魂へと惜しみなく向けるイエスで。

かがみ込んでいたそのまま、そおと手を延ばして
宙に浮く小さな光をその上へと導くと。
何とも優しい眼差しと微笑とでじっと見つめてやり、

 「今日のは私がおっちょこちょいだっただけ。
  しっかりしてりゃあ防げたものだし、
  現にブッダもいての何事もなかったのだから、
  どれもこれも“ノーカン(ノーカウント)”だよ?」

いかにも俗っぽい言いようをし、それは朗らかに笑ったヨシュア様。
その笑顔をそのまま光のほうへ戻すと、

 「ねえ、キミ。
  わたしはまだ、しばらくほど地上から戻らないのだけれど。」

でもね、安心おし。
天界はそれは楽しいところだし、優しい仲間もいっぱいいるから。

 「私のことは置いといてってなるほどに、
  それは楽しいところだからね?
  このままこの彼に連れてってもらいなさい。」

ちかちかと柔らかく点滅する光の玉は、
イエスの手のひらに撫でられるとほのかに緋色をおびたれど。
さあと送り出すような仕草をされると、素直にラファエルの手へゆだねられ。
ではと小さく会釈をした癒しの天使と共に、
新しい住まいとなる天界へ向けて、
秋空の中、キラキラちかちかと旅立っていったのだった。






        お題 F “もう待てないよ”



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  *“待てない”の意味というか使い方が反則ですいません。
   そこまで情熱的な間柄じゃない二人なんで
   どうしたものかとか思ったんですが……。ま・いっかっ。
(こら)

  *話は変わって、
(おいこら)
   書くときに ここんとこ聴いているのは、
   アニワンのOP集か、
   ふりっぷさいどさん とかだったりするんですが。
   (しかもレイルガンだ、微妙に古いぞ)笑
   でもでも、あのですね。
   オフコースの昔の歌とか
   たまに思い出したように聴いてみると、
   このお話へは しゃれになりそうなタイトルの
   “YES-NO”とか“YES-YES-YES”とか
   な〜んかウチの二人のラブっぷりには合うような気がして…。
   あらためて聴いてると妙にくすぐったいですvv


ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

拍手レスもこちらvv


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